頻繁な見直しが行われる介護保険法ですが、なぜこのように見直しが多いのでしょうか。
また、最近の改正では、何年に1度見直され、どんなことを背景に、改正が行われたのでしょうか。
急速に少子高齢化が進む中、見直しの進んだ分野は、介護保険制度の課題の多いところでもあります。
介護保険の課題を知っておくことは、今後のライフプランを立てるうえで参考になりますので、是非目をお通しください。
介護保険法の見直しは、3年に1度。なぜ?
2020年、65歳以上の高齢者は人口の3人に1人、3500万人が高齢者とされています。
介護保険制度は、みんなで支え、みんなで使う介護サービスを提供してくれる制度です。
年を取ってから、介護サービスを安心して使える制度にすることが目標でした。
ところが、制度スタートから20年がたち、高齢者の増加・若年人口の減少による人手不足により、人口構造が急速に変わっていることから、何度も見直しを迫られており、3年に1度介護保険法改正が行われています。
介護保険の現在の課題ですが、介護保険制度利用増に伴う財源の不足に対応して、負担と給付のバランスを図り、そして、介護はケアをすることから予防にシフトするしています。
さらに、介護保険制度だけでなく、他の制度とも連携をとることができる、地域包括ケアシステムを充実するなどして、課題に対して解決策を示しています。
厚生労働省から公表されている、「介護保険見直しに関する意見」(平成22年度、平成28年度)という資料によると、近年の改正の争点となってきたより具体的な課題としては
- 現役世代から、介護保険料の負担をどうやって増やすか
- 利用者世代から、所得に応じた利用料をどうやって徴収するか
- 介護保険と医療の連携のあるべき姿
- 介護保険の利用者人口の増加にどのように事務手続きを対応させるか
- 地域での介護を推進するにはどうするか
- 介護の負担を減らし、人手不足を補うための介護予防をどうやって進めるか
- 介護サービスの報酬をどのように適正化する
などがありました。これに対して、様々な論点・意見が出ています。
介護保険制度見直し、その背景と対応
大きく分けて、財源不足にどのように対応するか、人手不足にどのように対応するか、2点の大問題に対する施策が意見としてまとめられています。
そしてさらに、急激に変化した社会に対応しなければならない高齢者の困りごとに対して必要に応じて対応しているようです。
介護保険スタート以来、介護保険の利用者は平成28年度時点でほぼ3倍になっており、かつてないほどの少子高齢化が進んでいます。
そんな中、利用者の負担を増やすこと、保険料を上げること、その両面から被保険者の負担増は進みました。
他方で、介護保険のサービス利用までの事務の非効率性、各種の制度とのサービスの重複が指摘されていました。
利用者の負担増の中、コストのかかる事務を効率化するにはどうしたらいいか、また、介護サービスの担い手をより増やすにはどうしたらよいか、という観点から、人手対策に関しての施策も進めています。
その結果、事務の簡素化、ICT化がすすめられ、大量事務に備えるとともに、施設を法令の枠を超えて統合させ、福祉人材の活用を進める動きも始まっています。
このようにして、介護保険のゴールは時代に応じて変わっていきますが、厚生労働省では次のような方向性をもって、介護保険を変えていくことを検討しています。
今後の方向性
地域づくりの3つの方向性⇒互いに影響し合い、「我が事」の意識を醸成
- 「自分や家族が暮らしたい地域を考える」という主体的・積極的な取組の広がり
- 「地域で困っている課題を解決したい」という気持ちで活動する住民の増加
- 「一人の課題」について解決する経験の積み重ねによる誰もが暮らしやすい地域づくり
- 生活上生じる課題は介護、子育て、障害、病気等から、住まい、就労、家計、孤立等に 及ぶ⇒くらしとしごとを「丸ごと」支える
- 地域の持つ力と公的な支援体制が協働して初めて安心して暮らせる地域に
(平成29年度老健局部局長会議資料より引用)
介護のニーズを満たすというのは、今までは高齢者に対する身体的・物理的ケアを充実させることが目標でした。
しかし、高齢者の生活そのものを支えないと、結局介護保険の財源がより必要になることから、介護保険に関する行政改革にとどまることなく、介護を予防するための社会の体質改善に取り組もうとしているようです。
近年の介護保険制度の見直しの動きをさらに詳細にご紹介するため、2018年度・2021年度の介護保険法改正について背景とともに概要をお伝えします。
2018年度改正のポイントと背景・自己負担増、地域包括センターの役割増強など
2018年度改正のポイントは以下の通りです。
財源関連・自己負担割合「3割」の導入
介護保険サービス利用時の自己負担割合はそれまで1割または2割でしたが、高齢者の実態にはそれより大きな大きな資産と所得の格差があります。
介護保険サービス利用における公平な負担を求めて、2018年8月より所得に応じて1割~3割がサービスに対する自己負担割合となりました。
裏を返すと、介護保険からの支出が、一部の方に対しては7割となったものです。
財源関連・第2号被保険者の保険料に総報酬割を導入
介護保険第2号被保険者のうち被用者保険を通じて介護保険料を納める人、つまり会社員など給料をもらっている人に関係します。
それまでは、各被用者保険が担うべき保険料の総額は加入者数によって決められていました。
しかし企業によって所得も大きく異なるため、加入者数ではなく報酬額によって保険料を決定することになったのです。
介護保険料の総報酬割は2018年より段階的に導入され、2020年度から全面導入されています。
共生型サービス・地域包括ケアシステムの総合的な推進
介護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法にまたがる「共生型サービス」が新たに位置づけられました。
介護保険法・障害者総合支援法・児童福祉法は、それぞれ「障害があり、介護が必要な方のサービス」の根拠法令になります。
同じサービスであっても、根拠となる法令が異なり、介護保険が優先適用となる65歳になると、施設を変わらなければならない障害者の方がいました。
こうしたいわゆる縦割りの弊害を、「共生型サービス」により、解消しようというわけです。
2018年度改正で、より実態に合った制度になりました。
福祉人材も1つの拠点で有効活用することができます。
介護医療院の創設
「介護医療院」は、日常的な医学管理や看取り、ターミナルケアといった医療的ニーズを持つ要介護者向けの施設です。
介護保険制度は、医療が必要であるとすると、その原因となった疾患が、要介護認定の対象となっている場合には、介護保険が優先適用されます。
しかし、実務的には、具合の悪いお年寄りが、介護保険対象疾患では施設にいて、短期に病院に搬送され、少し良くなるとまた施設に戻るようなことでは施設関係者など関係者にとっても負担に感じます。
ご本人の療養にもあまりいい影響は考えられません。
その隙間を埋める介護療養型医療施設をより実態に合ったものにするため登場したのが介護医療院です。
介護に中心があるII型、重篤な身体疾患・要介護度の高い方向けのI型に区分されます。
有料老人ホームの入居者保護のための施策見直し・強化
介護施設はかつてより確実に増加していますが、問題のある有料老人ホームによるトラブルもまた多く発生しています。
トラブル防止のため、入居者保護を目的とする施策が強化されました。
特に大きなポイントが、有料老人ホームの「前払金の保全措置義務」も対象を拡大し改正されています。
一括入居金などの前払金を支払ったが、契約をキャンセルしても返してもらえない、などのトラブルに備えて、より広い範囲のお年寄りが優先して払ったお金を取り戻せるようにしています。
改正前は2006年(平成18年)4月1日以降に届け出た有料老人ホームの入居者のみが対象でした。
この改正で、それ以前に届け出を出した有料老人ホームの入居者も対象となり、より幅広く保全措置が受けられるようになりました。
その他、都道府県知事の権限を大きく強いものにし、入居者の保護をその権限で進められるようにしました。
次のような権限があります。
- 有料老人ホームの設置者は、ホームの情報を都道府県知事に対して報告。都道府県知事は報告された事項を公表しなければならない。
- 都道府県知事は、問題のある有料老人ホームに対して「事業の制限または停止」を命令可能に。
- 有料老人ホームが事業の制限または停止の命令を受けたときや、入居者が安定して生活できないと認められるときは、都道府県が必要な助言などの援助をおこなう。
その他、2018年度改正では、事業者の介護報酬改定や、福祉用具貸与の上限価格の設定なども行われています。
最新2021年度改正のポイントと背景・高額介護費用などの改定、8050問題への対応、ICT化など
2021年度改正のポイントは以下の通りです。
財源関連・高額介護サービス費の見直し
介護保険サービスの自己負担分、最大44,000円の負担限度額を、医療保険の高額療養費にそろえることとなりました。
改正後は、高所得者にはより多くの介護保険サービスに関する負担を求めるとしています。
介護保険料納付開始年齢の30歳への引き下げ、介護保険料のアップなどの改正は、2021年度は見送られましたが、一部利用者負担増の結果となりました。
財源関連・補足給付の見直し
介護保険の適用範囲ではない施設入居の際の食費・光熱費についての給付を補足給付といいます。
低所得者のなかでも比較的所得の高い層の自己負担割合を引き上げる方針です。
8050問題に対応可能・地域包括支援センター機能強化
かつては老老介護が大きな問題でした。
しかし現在は50代の引きこもりの子どもと、80代の親が同居する「8050問題」が大きな問題となっています。
社会から孤立しがちな、80代の親と、50代の子どもがどうやって生活の維持をしていくかは深刻な問題です。
誰にも助けを求められず、新型コロナウイルスの流行をきっかけとして、より一層悲劇的な事件が最近目立っています。
こうした中、支援を求められたら断らない体制の整備・介護問題を全体の生活の中でとらえる視点の転換を求められています。
その対策として、介護・障害・子ども・困窮の相談支援に関わる事業の役割を地域包括支援センターなどに一本化します。
「断らない相談支援」を目指し、就労支援・居住支援・居場所機能の提供など、多様な支援・サービスを介護保険・障碍者支援事業・児童福祉事業の垣根を越えて提供する予定です。
介護保険法2021年度改正の目玉の一つですが、地域によって設置は自由とされていますので、もう一歩の踏み込みが期待されます。
介護現場のICT化・業務改革
若年人口の減少・介護の仕事がきつく、報酬が見合わないと感じている人も多いことから、介護人材の確保は大きな課題です。
処遇改善・業務の効率化、改善のため、RPAロボットその他ICTの活用なども取り入れ介護現場を改革することとしています。
将来的に個人の保健・医療・介護データを連結して解析することなどを見据えており、そのための基盤整備が進められます。
厚生労働省が発出する各種業務の指針・文書などの改定を伴っています。
まとめ
介護保険の見直しは、少子高齢化の進展と、社会状況の変化に応じて、3年に1度行われます。
構造的な財源・人手不足に対応しつつ、高齢者の生活に密着した新しく生じた問題に対応することが課題で見直しを重ねてきたものです。
ご自身のライフプランを考えるうえでも、できるだけ最新情報は情報収集をしておきましょう。
なお、保険加入を検討する際は、保険のぷろサービスがおすすめです。保険代理店に在籍するファイナンシャルプランナーが、公平な立場で最適な保険プランを提案します。
以下のお申込みフォームから申し込めるので、是非お気軽にお問い合わせください。