医療保険控除の仕組みを知ろう!金額の計算方法とシミュレーション

医療保険の控除について

医療保険

公的医療保険だけでは医療費に不安がある方の中には、医療保険に加入して将来の医療費に備えている方も多いでしょう。

保険料といえば、会社員の方は年末調整時に、個人事業主や自営業の方などは確定申告時に「生命保険料控除」を申告することができますね。生命保険料控除を申告すると所得税や住民税の節税になるため、忘れずに申告したいものです。

そこで、今回は医療保険の控除について、利用できる保険の種類や計算方法などを詳しく解説します。もれなく申告できるように、控除制度についてしっかりと確認しておきましょう。

高橋朋成

年金アドバイザー / EQプロファイラー / 2級ファイナンシャルプランニング技能士

この記事の監修担当者:株式会社クロックアップ 代表取締役 高橋朋成

20年以上にわたり外資系生保や損保系生保などで、販売現場での営業スタッフの採用や実践を活かした生保販売や育成手法に携わった経験を損保代理店向けに特化してアレンジし2013年に株式会社クロックアップを設立。

業務内容は損保代理店の
専属コンシェルジュとして
① 保険営業職の人材紹介、マッチングサポート
② 損保営業マン向け生保クロスセル研修
③ 代理店M&Aマッチングサポート等
を行っている。

医療保険料の控除制度について

医療保険料の控除制度について

医療保険の控除は「生命保険料控除」のひとつです。したがって、まずは生命保険料控除の概要から確認していきましょう。

また、生命保険料控除は平成22年度の税制改革によって、「新契約」と「旧契約」のふたつに分かれることになりました。そのため、計算方法や限度額などの変更点についても抑えていきます。

生命保険料控除が利用できる民間の保険

生命保険料控除が利用できる民間の保険には次の3つの種類があります。

  • 一般生命保険料
  • 介護医療保険料
  • 個人年金保険料

ただし、すべての契約で生命保険料控除が申告できるわけではなく、それぞれ条件が設けられています。

一般生命保険料

一般生命保険は、生存または死亡によって保険金がもらえる保険で、具体的には終身保険や養老保険、定期保険、学資保険などが対象になります。

保険期間が5年未満の貯蓄保険や財形保険、団体信用生命保険などは対象外となります。

保険料控除を利用できるのは、保険金受取人が契約者または配偶者、その他の親族(6親等以内の血族と3親等以内の姻族)になっている契約が対象です。

介護医療保険料

介護医療保険料は、病気やけがで保険金が支払われる保険の保険料のこと。一般の医療保険はこちらで控除の申告をします。

介護医療保険料控除を利用できるのは、一般生命保険料と同じく、保険金受取人が契約者または配偶者、その他の親族になっている契約が対象です。

また、介護医療保険料に含まれる保険としては、他にも、がん保険や介護保険、就業不能保険などがあります。

個人年金保険料

公的年金だけでは老後の生活費が心配な場合などに、個人で年金を準備しておくための保険が個人年金保険料として控除申告できます。

保険料控除を申告するためには、「個人年金保険料税制適格特約」が付いているうえに、以下の条件をすべて満たしている必要があります。

  • 年金受取人が契約者または配偶者
  • 年金受取人は被保険者と同一人物
  • 保険料払込期間が10年以上(ただし一時払いは対象外)
  • 年金受取開始が60歳以降で、受取期間が10年以上

なお、「個人年金保険料税制適格特約」が付いていない契約と「変額個人年金保険」は、一般生命保険料控除の対象となりますのでご注意ください。

医療保険の「新制度」と「旧制度」に注意

医療保険の契約日によって「新制度」と「旧制度」に分けられ、それぞれ控除対象や上限額が異なります。

新制度は2012年1月1日以降に契約したもので、旧制度は2011年12月31日までに契約したものです。

旧制度では控除の種類が「一般生命保険料控除」と「個人年金保険料控除」のふたつのみで、医療保険は「一般生命保険料控除」に含めて申告していました。

新制度では控除の種類がひとつ追加され、「一般生命保険料控除」、「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3つに分かれて、医療保険は「介護医療保険料控除」として申告します。

「新制度」と「旧制度」は、医療保険などの控除金額を計算するうえで大事な点なので、次章で詳しくご説明していきます。

医療保険控除の計算方法とシミュレーション

医療保険控除の計算方法とシミュレーション

医療保険の控除額を計算するには、「新制度」と「旧制度」に分けて考える必要があります。まずは、控除を申告しようとする医療保険がどちらに該当するかを確認してみましょう。

もしわからないときは、毎年10月から11月頃に保険会社から送付される「生命保険料控除証明書」に記載されています。

また、「保険料控除の計算は、毎年やっていてもよくわからない!」という方もいると思いますので、モデルケースを使って医療保険控除申告のシミュレーションしてみたいと思います。

「新制度」と「旧制度」では計算方法や上限額が異なる

「新制度」と「旧制度」を比較すると、新制度では控除項目が3つあるのに対し、旧制度では2つしかありません。

控除上限額は、新制度では各控除項目4万円ずつ、最高で合計12万円の控除を受けることができます。一方、旧制度は各控除項目5万円ずつなので、最高で合計10万円の控除です。

では、新契約と旧契約の医療保険控除額の計算方法を以下にまとめましたので確認していきましょう。

新契約の控除額の計算方法(2012年1月1日以降に契約分)

1年間の払込保険料 控除額
20,000円以下 払込保険料の全額
20,000円超
40,000円以下
払込保険料×1/2
+10,000円
40,000円超
80,000円以下
払込保険料×1/4
+20,000円
80,000円超 一律40,000円

旧契約の控除額の計算方法(2011年12月31日以前に契約分)

1年間の払込保険料 控除額
25,000円以下 払込保険料の全額
25,000円超
50,000円以下
払込保険料×1/2
+12,500円
50,000円超
100,000円以下
払込保険料×1/4
+25,000円
100,000円超 一律50,000円

新契約と旧契約の両方に加入している場合

新契約と旧契約の医療保険のどちらにも加入しているケースでは、次の3つの計算方法から選ぶことができます。

  1. 新契約の医療保険だけ控除申請する
  2. 旧契約の医療保険だけ控除申請する
  3. 新契約と旧契約の両方の医療保険を申請する

1の場合は最高40,000円、2では最高50,000円まで控除できます。

3の場合は、新・旧それぞれで控除申請ができますが、合計で40,000円までとなる点にご注意ください。

1~3のどの方法が一番お得なのかは実際に計算してみなくてはわかりませんので、ひとつずついくらになるのか確かめてみましょう。

ちなみに、旧契約のものであっても、2012年1月1日以降に契約の更新や転換などをした場合は新契約になります。

医療保険控除をシミュレーションしてみよう

ではここで、医療保険控除の計算方法を、モデルケースを使ってシミュレーションしていきましょう。

ケース1:新契約の医療保険のみの場合

【新契約の医療保険】年間払込保険料:27,000円

新契約の医療保険を年間に27,000円支払っている場合、計算式は既出の表より次の計算式に当てはめて計算していきます。

介護医療保険料控除額=払込保険料×1/2+10,000円=27,000円×1/2+10,000円=23,500円

したがって、医療保険の控除額は23,500円ということがわかります。

ケース2:旧契約の医療保険のみの場合

【旧契約の医療保険】年間払込保険料:27,000円

旧契約で年間払込保険料が27,000円の場合の計算式は、既出の表より以下の計算式で計算します。

介護医療保険料控除額=払込保険料×1/2+12,500円=27,000円×1/2+12,500円=26,000円

以上より、医療保険の控除額は26,000円となります。

ケース3:新契約と旧契約の医療保険がある場合

少し難易度が上がりますが、新契約と旧契約の両方の医療保険に加入しているケースを計算します。

【新契約の医療保険】年間払込保険料:27,000円

【旧契約の医療保険】年間払込保険料:27,000円

両方の医療保険に加入している場合は、すでにご紹介しました通り、3つの計算方法からお得なものを選べるので、どの方法にするかはすべて計算してみる必要があります。

  1. 新契約のものだけ控除申請する
  2. 旧契約のものだけ控除申請する
  3. 新契約と旧契約の両方を申請する

1を選んだ場合、新契約のみを控除申請しますので、控除額はケース1と同じ23,500円になります。

2を選んだ場合、旧契約のみを控除申請しますので、控除額はケース2と同じ26,000円になります。

3を選んだ場合は、新・旧の控除額を合計するので、23,500円+26,000円=49,500円になります。しかし、上限が40,000円と決まっているので、申請できる金額は40,000円になります。

したがって、3番目を選んで医療保険控除を申告するのが一番お得ということがわかります。

医療保険控除に必要な書類

医療保険控除に必要な書類

医療保険控除に必要な書類は以下のふたつです。

  • 給与所得者の保険料控除申告書
  • 生命保険料控除証明書

会社員の方は、毎年11月から12月頃になると会社の担当者から年末調整の書類を渡されると思います。

通常、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」とともに「給与所得者の保険料控除申告書」が配布されますが、こちらに記入して提出すると医療保険控除を申告することができます。書き方がわからない方は、担当者に相談しながら記入していきましょう。

生命保険料控除証明書の方が早い時期に郵送されますので、紛失しないようにご注意ください。もし紛失してしまったら、すみやかに保険会社に連絡し再発行の依頼をしましょう。

医療費控除は確定申告でも手続きできる

もし年末調整で医療保険の控除申請ができなかった場合は、確定申告でも手続きすることができます。

確定申告の時期は一般的に毎年2月16日~3月15日の1か月(土日祝日に当たる場合は、翌月曜日が期限になる)ですが、会社員が医療費控除を申請する場合はこの期間にかかわらず、翌年以降5年間以内であればいつでも申請することができます。

所得税だけでなく住民税も安くなる

医療費控除を申請すると、所得税だけでなく住民税も安くすることができます。

中には、「住民税の控除申告はしたことがない。」と考える方もいるかと思いますが、年末調整や確定申告では所得税の計算だけすればよく、住民税の計算をする必要はありません。

とはいえ、大切な節税に関することですので、控除金額について知っておくことは大切なことですよね。

住民税も「新制度」と「旧制度」では控除金額が異なりますので、以下にご紹介します。

新制度での医療費控除額

1年間の払込保険料 控除額
12,000円以下 払込保険料の全額
12,000円超
32,000円以下
払込保険料×1/2
+6,000円
32,000円超
56,000円以下
払込保険料×1/4
+14,000円
56,000円超 一律28,000円

医療保険の払込保険料が56,000円以上あると、最高28,000円の控除を受けることができます。

なお、新制度にはほかにも「一般の生命保険料控除」と「個人年金保険料控除」もあり、それぞれで最高28,000円の控除が受けられ、3区分の合計で最高70,000円が控除されます。

旧制度での医療費控除額

1年間の払込保険料 控除額
15,000円以下 払込保険料の全額
15,000円超
40,000円以下
払込保険料×1/2
+7,500円
40,000円超
70,000円以下
払込保険料×1/4
+17,500円
70,000円超 一律35,000円

旧制度では、70,000円超の場合最高で35,000円の控除を受けることができます。

ほかにももうひとつ「個人年金保険料控除」もあり、最高35,000円の控除が受けられ、合計で最高70,000円まで控除されます。

新制度と旧制度の両方がある場合

新制度と旧制度の医療保険に加入している場合は、所得税の場合と同様に新制度・旧制度それぞれで控除額を計算します。

新制度と旧制度の合計のどちらの控除額がお得かを判断して医療保険控除を申請します。

「医療費控除」も節税対策に効果あり

「医療費控除」も節税対策に効果あり

本来、医療保険は高額な医療費に備えて加入するものですが、節税効果のあるものとして「医療費控除」があることも忘れてはいけません。

医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定金額(一般的に10万円)を超える場合に、申告することで所得税を安くできる制度です。

申請できる条件や対象が決められていますので、詳しく確認していきましょう。

医療費の10万円を超えた金額が控除される

医療費控除を受けられるのは、納税者本人および生計を一にする家族ために支払った医療費で、1月1日から12月31日の分が対象になります。ただし、上限は200万円までとなります。

控除できる金額は、以下の式で計算します。

医療費控除額=1年間に支払った医療費の合計額-保険金などの補填金-10万円(※)

※低所得者は所得金額の5%を適用

「保険金などの補填金」には、入院や手術をした際に受け取った入院給付金・手術給付金や、出産時に受け取った出産育児一時金などがあり、医療費合計額から差し引いて計算します。

また、低所得者の場合は、総所得金額の5%が適用されるので、10万円を超えなくても申告することができます

医療保険控除の対象となるものと対象外のもの

医療費にかかったものすべてが医療費控除の対象となるわけではなく、対象となるものとならないものがあります。

代表的なものを一覧表にまとめましたのでご確認ください。

項目 医療費控除の
対象となるもの
医療費控除の
対象外のもの
治療・検査 ・治療費や医療費(治療目的)・
治療につながった人間ドッグや
健康診断費用
・美容目的や予防目的の医療費
・「異常なし」と診断された人間ドッグや健康診断費用
・リフレッシュ目的のマッサージやはり、灸など
入院・通院 ・入院中の食事代
(病院から提供されるもの)
・入院や通院にかかった交通費(原則電車やバス代。タクシーは電車やバスが利用できない場合のみ)
・入院に必要な日用品
(歯ブラシ、タオルなど)
・通院に使った自動車の
ガソリン代
妊娠・出産 ・妊婦健診の
自己負担分
・普通分娩・
入院費
・帝王切開手術
歯科 ・虫歯の治療費
・入れ歯、金歯、ブリッジ費用
・治療目的の歯列矯正
美容歯科(美容のための歯列矯正、ホワイトニング等)
眼科 ・レーシック手術
・オルソケラトロジー治療
医薬品 ・医師の処方箋で購入した医薬品
・治療のための市販薬
予防や健康増進、疲労回復のために用いるビタミン剤や栄養ドリンクなど

【参考:国税庁「医療費控除の対象となる医療費」

医療費控除の対象になるのは、原則として「病気やけがの治療を目的とするもの」です。そのため、予防のために服用するビタミン剤や疲労回復のためのマッサージや栄養ドリンクなどは対象となりません。

また、「人間ドッグ」は受けただけでは医療費控除の対象外ですが、受診の結果、何らかの異常が見つかり治療を受けることになった場合は医療費控除の対象になります。

医療費控除に必要な書類

医療費控除を申請する際に必要な書類は次の4点です。

  • 確定申告書
  • 医療費控除の明細書
  • 源泉徴収票
  • マイナンバーカード(ない場合は「マイナンバー通知カード」や「住民票」)

ではそれぞれの書類について注意点も併せて確認していきましょう。

確定申告書

医療費控除は確定申告で行いますので、確定申告書が必要になります。

用紙は税務署で配布しているほか、国税庁のホームページからダウンロードすることもできます。

おすすめの方法は国税庁ホームページの「確定申告等作成コーナー」で、金額等を入力するだけで確定申告書が作成できます。

医療費控除の明細書

医療費控除は、原則として1年間の医療費が10万円以上かかったときに申告できるものなので、その証拠となるものを提出しなくてはなりません。

これまでは、「医療費の領収書」をまとめて提出していましたが、平成29年から「医療費控除の明細書」を提出することになりました。

「では領収書はもういらないの?」と思うかもしれませんが、医療費の領収書は5年間保存しておいてください。というのも、確定申告後5年間は税務署から領収書の提出を求められる可能性があるためです。

医療費の明細書にもれなくスムーズに記載できるように、医療費の明細書はまとめて保管しておきましょう。市販薬を購入した際のレシートや領収書も紛失しないように気を付けてください。

また、健康保険組合や協会けんぽから送付されてくる「医療費のお知らせ」を添付すると、明細書への記載を省略することができます。

源泉徴収票

源泉徴収票が必要になるのは会社員の方のみです。確定申告では前年の所得を証明しなくてはならないため、会社の年末調整の際に発行される源泉徴収票を添付してください。

ちなみに、源泉徴収票はコピーではなく原本を提出します。

もし紛失してしまった場合は、早めに会社に相談し再発行の手続きをとりましょう。

「共働きの場合、どちらが医療費控除を受ければお得なの?」という疑問を持つ方もいるかもしれませんね。

一般的には、所得税を多く納付している方、つまり収入の多い方の方が申請すると、税金上有利になることが多いです。

マイナンバー

確定申告書を提出する際には、マイナンバーを記載し、本人確認書類を提示するか写しを添付する必要があります。

マイナンバーカードを持っている場合は本人確認書類を兼ねることができますが、持っていない場合は「マイナンバー通知カード」や住民票などの「マイナンバーが確認できる書類」と、運転免許証やパスポートなどの「本人確認書類」が必要になります。

まとめ

医療保険は、年末調整や確定申告をすることで、新契約で最高40,000円、旧契約で最高50,000円の控除を受けることができます。

新制度と旧制度の医療保険とでは計算方法や控除限度額が異なるため、いつの時点で契約した医療保険なのかを確認することが大切です。

生命保険料控除の計算は一見難しそうなので苦手意識を持つ方が多いですが、個人が利用できる数少ない節税対策のひとつなので、医療保険をはじめ生命保険料をもれずに申告するようにしましょう。

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