日本の医療保険制度を理解するためには、これまでの歴史を把握することも重要です。
現在の制度になるまでの歴史を知ることは、医療保険の仕組みに対する理解にも繋がります。
本記事では、現在の医療保険制度に至るまでの歴史をわかりやすく解説します。
外国から見た日本の公的医療保険の魅力も解説しますので、ぜひ本記事を参考に医療保険についての理解を深めましょう。
第一次世界大戦後、健康保険から始まった医療保険の歴史
1914年から1918年にかけて起きた第一次世界大戦の影響を受け、日本では労働者の生活や健康の安定を求める声が高まりました。
こうした声を受け、1922年に旧健康保険法が制定されます。
健康保険法の制定により、10人以上の従業員がいる企業で働く労働者が医療保険の対象になりました。
労働者の生活や健康の安定を図る制度が確立し、現在の医療保険に繋がる第一歩となりました。
また、1938年には旧国民健康保険法が制定されています。
しかし当時は現在とは違って任意加入の公的医療保険制度であったため、医療保険に加入しない国民が多くいました。
1961年に国民皆保険制度が実現!!!
旧国民健康保険法の制定当初、国民健康保険事業の実施は各自治体によって任意で運営されていました。
そのため、国民健康保険事業が実施されていない自治体に住み、かつ被用者保険の対象となっていない人は医療保険に加入していない状況となっていました。
そこで1958年に新たな国民健康保険法が制定されます。
すべての市区町村に国民健康保険事業の実施が義務付けられ、健康保険の被保険者・被扶養者以外の市区町村の住民が国民健康保険の被保険者になるように法律で定められました。
1961年にはすべての市区町村で国民健康保険事業が実施され、国民皆保険が実現できました。
現在まで続く国民皆保険は、このような歴史を背景とした成り立っているのです。
高齢者自己負担ゼロ?70歳以上の医療費が無料に
1973年には、70歳以上の高齢者の医療費自己負担が公費の負担により無料化されました。
しかし、高齢者の加入率が高い国民健康保険の財政が圧迫され、財源の持続可能性にも疑問の声が上がりました。
そこで、1982年には老人保健法が制定されます。
高齢者に医療費の一部負担を課し、公費と各医療保険が負担することで、総合的な高齢者医療の対策を進めていきました。
自己負担額1〜3割へ変化
健康保険が導入された当初、被保険者の医療費自己負担はゼロでした。
しかし、1943年に被保険者の定額自己負担が導入されました。
その後、1984年には定率負担となり医療費の1割、1997年に2割、2003年からは現在と同じ3割となっています。
医療保険制度の歴史を見ていくと、医療費の自己負担が少しづつ引き上げられながら制度の運営を維持していることが分かります。
近代の医療保険負担割合について、まとめた記事もあるので気になる方は、こちらも読んでみてください。
公的医療保険の自己負担割合はどれくらい?負担額を抑えるための方法とは
2000年代の歴史!医療保険に関する制度・法律
ここまで医療保険制度の大まかな歴史を解説してきました。
ここからは、2000年代の医療保険に関する制度・法律について解説していきます。
2006年には医療制度改革
2006年、医療制度改革法が成立しました。
医療制度改革法のポイントは主に以下の3つです。
- 高齢者の自己負担引き上げ
- 後期高齢者医療制度の創設
- 医療費の抑制
医療制度改革によって、現役並みに所得がある高齢者の自己負担が2割から3割に引き上げられ、70〜74歳の高齢者の患者負担が1割から2割になりました。
また、2008年度から老人保険制度を改め、後期高齢者医療制度が創設されることも決まりました。
加えて医療費を抑制するための「医療費適正化計画」を作成し、医療費の給付負担を軽減させる計画も改革に盛り込まれました。
国民健康保険制度創設以来最大の改革とは
2015年に医療保険制度改革法案が成立しました。
これは、2018年からこれまで市町村で運営されていた国民健康保険を都道府県に移管する法案です。
都道府県が医療保険制度の財政運営や医療を提供する体制の中で大きな責任・権限を持つようになったことを示します。
この改革法案は「国民健康保険制度創設以来最大の改革」と言われています。
日本は恵まれている?現代の公的医療保険の制度
ここまで歴史を解説してきた通り、日本の公的医療保険制度はさまざまな改革を経て現在の仕組みになっています。
私たちにとっては当たり前の医療保険制度ですが、世界的に見ると高い水準で医療保障を受けられる魅力的な制度です。
ここでは日本の医療保険制度の強みについて解説します。
国民皆保険は世界的にすごい
日本は国民皆保険となっており、日本に住むすべての国民が公的医療保険制度に加入しています。
しかし海外には国民皆保険ではない国があり、日本の公的医療保険制度は魅力的と言えます。
例えば、アメリカでは65歳以上の高齢者や障害者、低所得者しか公的医療保険の対象となりません。
公的医療保険で保障されない人は民間の医療保険への加入が義務付けられているものの、いまだに保険に加入していない人が多くいる状況です。
公的医療保険が充実していない分、医療費窓口でかかる自己負担も日本に比べて非常に高額です。
所得によって受けられる医療に格差があり、なかなか是正されていません。
所得に関係なく安心して医療を受けられる点は、国民皆保険を実現できている日本の公的医療保険制度の強みです。
フリーアクセス!外国では当たり前じゃない
日本では、医療保険にフリーアクセスという制度が設けられています。
フリーアクセスとは、患者自身が自由に治療を受ける医療機関を選べる仕組みのことです。
外国ではフリーアクセスは決して当たり前ではなく、治療を受ける医療機関を自由に選べないケースがあります。
例えばイギリスではかかりつけ医の登録制があり、患者ごとに決められた医師に最初に受診しなければなりません。
一切の制限もなく自由に医療機関を選べる点も、日本の公的医療保険制度のメリットのひとつです。
現物給付(医療サービス)
日本の公的医療保険制度の特徴として、現物給付であるという点も挙げられます。
診療や検査、投薬、注射、手術などの医療サービスを一部負担のみで給付される仕組みです。
現物給付は被保険者本人だけでなく、被扶養者に対しても行われます。
必要な医療をケガ・病気が完治するまで給付を受けることができます。
一定の窓口負担だけで平等に医療サービスが給付される点も、日本の医療保険制度の大きな特徴です。
社会経済成長と共に発展した医療保険の歴史まとめ
本記事では、日本の公的医療保険制度の歴史について解説してきました。
日本の医療保険制度は、さまざまな改革によって現在の形に変化してきています。
海外から見ても高い水準での医療保障が備えられており、魅力的な制度です。
現在に至るまでの歴史や制度の特徴を理解した上で、現在の医療保険制度を十分に活用しましょう。