近年は入院日数が短期化し、通院治療がより一般的となってきています。そのため、入院・手術時の給付をメインとしている医療保険ではなく、通院のみに保障を限定した医療保険に加入したい方もいるでしょう。
しかし、結論からお伝えすると通院給付だけを保障する医療保険はありません。
今回は、通院のみの医療保険が存在しない理由について、最新の医療事情などを踏まえた上で解説します。
入院や手術よりも、通院で治療する機会がますます多くなっています。
通院費用への備えを検討する際には、ぜひ本記事を参考にしてください。
通院のみを保障する医療保険は存在しない(2022年現在)
医療技術の高度化に伴い、従来の入院・手術ではなく通院による治療が主流となってきています。
通院型の治療が増えている昨今の状況を踏まえ、「通院のみを保障する医療保険に加入したい」と考える方も少なくありません。
しかし、通院のみの保障内容にできる医療保険は販売されていません。
まずは医療保険での通院保障の仕組みについて改めて確認しましょう。
通院保障とは
通院保障とは、通院による治療のために給付金を受け取ることができる特約のこと。
通院のための給付金は「通院1日につき◯円」等と設定されます。
支給金額は、医療保険の入院給付金の日額の〇割とされることも。
通院保障は特約扱い
そもそも医療保険は、病気やケガ治療のための入院や手術に対する保障を基本としています(主契約)。
一方、通院に関する給付はオプションとして加入するため特約と呼ばれ、医療保険の主契約に付加する形で契約する場合が一般的です。
最近では、がん治療においても通院による治療がますます主流になっています。
従来は入院による治療がメインでしたが、薬物療法や放射線治療は通院(外来)で行われる場合が増え、重い病気やケガの場合も通院での治療頻度は高まっているのです。
「通院治療は入院や手術に比べて費用が安いから貯蓄で何とかなるだろう」と考える方も多くいます。
しかし、通院のみの場合も毎回の医療費の他に交通費などが必要です。
例えば、入院期間は短いものの、退院後の通院期間が長引けはある程度の費用が必要になってきます。
通院のみの場合でも、保障を付けて医療保険でカバーしておくと、もしもの際にも安心して治療を受けることができます。
通院保障の支払い対象・条件に注意
通院保障には、医療保険の給付金の支払い対象を入院前後の通院に限定していることがあります。
つまり、通院に関連する給付金を受け取るためには、入院が条件になっている場合が多数。
もしくは、入院の有無を問わず、通院した日数に応じて給付金が支給される保障もあります。
通院保障の支払い対象については、申し込み時に資料で詳細を確認しておくか、必要に応じて保険会社のお客さま相談窓口などに問い合わせましょう。
より詳しい通院保障の内容については、別記事「医療保険に通院保障は必要なのか?時代の変遷を考えよう」にて解説していますので、そちらをご覧ください。
昨今の医療事情からみる通院保障の必要性
医療技術は日々進化しており、数週間の病気やけが治療のため入院が必要でしたが、数日で退院可能になるなど、入院日数は短期化しています。
その反面、通院による治療は増加傾向。
それでは以下で、入院日数や通院(外来)の変遷について解説します。
入院日数の推移
それぞれの患者の平均入院日数について解説します。
生命保険文化センターによると、平成28年度の調査時の平均入院日数は19.1日※1だったのに対し、令和元年度の調査では15.7日※2で、数年間で平均入院日数が3日以上短縮されたことがわかります。
また、入院日数が5日未満という短期入院だった方の割合は、平成28年度は17.5 %だったのに対し、令和元年度は20.9%と上昇。
一方で、一般的に長期入院とされる61日以上の入院日数の割合は、平成28年度の5.9%に対し、令和元年度は3.6%と減少しているのです。
これらのデータから、長期入院の割合は相対的に減少し、代わって5日以内の短期入院の割合が増えていることがわかります。
結果として全体の入院日数は減少傾向にあるのです。
このことからも、医療保険に加入していたとしても入院保障として受け取ることができる金額は以前に比べると減っており、通院のみの保障のニーズが感じられます。
※1 令和元年度「生活保障に関する調査」
※2 平成28年度「生活保障に関する調査
通院日数の現状
では、通院日数はどの程度なのでしょうか。
ここでは厚生労働省による調査※3を引用した上で、外来患者数を通院と読み替えることで、通院による治療をしている方の割合を把握します。
平成17年までの調査では入院患者と通院患者数がほぼ同数でしたが、平成20年の調査から外来患者数が入院患者数を上回っています。
直近の平成29年の調査では入院患者数が12万人なのに対し、外来患者数は18万人。
治療が長期化することもあるがん等の病気の場合でも、通院を中心とした治療にシフトしていることがわかります。
通院のみ保障する医療保険が存在しない理由
通院による治療にシフトしているにも関わらず、通院のみを保障する医療保険が存在しないのはなぜなのでしょうか。
この点を考える上では、医療費の内訳と保険料の2点がポイントといえます。
通院のみの給付に絞った医療保険が存在しない主な理由は以下の通りです。
入院・手術費が医療費の大半を占めている
医療費の内訳を考えたとき、やはり多くの部分を占めるのは入院費と手術費です。
そのため、一般的な医療保険は入院・手術時にかかる費用をカバーすることを目的として商品が作られているといっても過言ではありません。
一方、通院治療は治療期間が長引けばそれなりに費用がかかるという特徴があります。
しかし入院・手術時の費用と比べるとそこまで高額にはなりません。
つまり、より大きな経済的負担が発生するであろう入院・手術時の備えを確保する重要性のほうが高く、通院のみの医療保険は契約者にとって医療保険で備える必要性は比較的低いのです。
通院中の費用を請求する際も、請求額や支払い額は入院・手術時の給付金よりも少額になることが予想され、契約者も加入のメリットを実感しにくいでしょう。
通院のみの費用をカバーする医療保険は、一見合理的な保険のように感じられます。
しかし、契約者にとってのメリットがそこまで大きいとはいえないのが実情です。
保険料が高くなってしまうから
続いては、保険会社の立場から通院のみの医療保険を販売しない理由です。
入院・手術のリスクと通院のリスクを比較した場合、リスク(給付金の支払いが生じる確率)は圧倒的に通院。
保険料はリスクに応じて算出されます。
仮に通院のみの医療保険を発売すると、契約者が給付金を請求する確率は非常に高いため、おのずと保険料を高く設定せざるを得ません。
プラン内容は通院のみとしているにも関わらず、保険料が高いとなると加入者数や契約数は非常に少数になることが予想されます。
商品の開発費用を考えると保険会社にもたらす収益は非常に少額です。
また、風邪や腹痛、頭痛など軽微な病気やケガで通院を繰り返したときでも契約者から請求された場合、支払い事由に該当していれば保険会社は給付金を支払わなければなりません。
上記の理由があるため、保険会社は通院のみに特化した医療保険の販売を積極的に行っていません。
保険会社側から考えた場合、収益性の面で通院のみの医療保険を開発・販売することは不可能ではないものの、今後も難しいといえるでしょう。
通院保障以外でも長期間のリスクに備えられる
上記で記載した通り、昨今の医療事情を考えると通院保障の需要は高まると考えられます。
しかし、病気やケガのための入院があってからの通院であるという条件や、今後通院のみの医療保険商品が販売される可能性は低いというデメリットが。
そのため、医療保険の通院保障以外で長期間のリスクに対応できるものをご紹介します。
支給者 | 対象者 | 注意点 | |
---|---|---|---|
傷害保険 | 損害保険 | 急激・偶然・外来の条件を満たした事故やケガ | 病気は対象外 |
傷病手当金 | 健康保険 | 病気やケガ等で就業できなくなった時 | 連続する3日を含む4日以上就労できない場合 |
就業不能保険 | 生命保険 | 病気やケガ等で保険会社所定の就業できなくなったとき | 精神疾患やうつ病は対象外となる保険商品が多数、一定以下の年収や特定の職業・職種・雇用形態は申し込めない |
所得保障保険 | 損害保険 | 病気やケガ等で保険会社所定の就業できなくなったとき | うつ病などの精神疾患・妊娠や出産・自傷行為や危険運転などが理由で働けない場合は支給対象外 |
まとめ
今回は、通院給付に特化した医療保険が存在しない理由について、昨今の医療事情などを踏まえて解説しました。
入院日数が短期化し、がんの抗がん剤治療など重い病気であっても通院による治療に徐々にシフトしているのが現状。
しかし、通院のみの医療保険は契約者・保険会社双方のメリットが小さいのです。
通院のみを保障する医療保険はないものの、頻回の通院や通院期間の長期化を考えると、通院中の備えを確保しておく必要性は非常に高いといえます。
医療保険に加入する際には特約として通院保障を付加し、昨今の医療事情を反映した内容に加入するようにしましょう。
当サイトでは、医療保険の正しい選び方を年代別に解説した記事をご用意しております。
今回医療保険について調べたことを機に、ぜひあなたに合った医療保険の選び方もチェックしてみてください。