がん保険は、がんで入院したり手術を受けたりした際に給付金を受け取ることができるなど、がん治療を幅広くポートしてくれるものです。
しかし、がん保険は必要と考える方がいる一方、「がん保険はいらない」と考える方もいます。
ご自身にとって、がん保険がいるものかいらないものなのかを判断するために、がん保険がいらないといわれる理由やがん保険に加入するメリットやデメリットなどについて確認していきましょう。
「がん保険はいらない」といわれる3つの理由
「がん保険は必要」と考えている方がいる一方で、「がん保険はいらない」と考えている方もいます。
ではなぜ「いらない」と感じているのでしょうか。その主な理由は次の3つが考えられます。
- 日本は公的医療保険が充実しているから
- 休業中は傷病手当金がもらえるから
- がんに罹患するとは限らないから
それぞれの理由について解説していきます。
1.公的医療保険が充実しているから
日本は公的医療保険制度が充実しており、国民すべてがいずれかの公的医療保険に加入することになっています。
会社員の方は勤務先の健康保険に、自営業や個人事業主の方は国民健康保険に、公務員の方は共済組合に加入しています。
これらの公的医療保険に加入することで健康保険証が発行され、医療機関を受診した際に窓口に提示すると、医療費の自己負担が以下のように軽減されます。
対象者 | 自己負担割合 |
---|---|
未就学児 | 2割 |
6歳 (義務教育就学) 以上69歳以下 | 3割 |
70歳以上74歳以下 | 2割 |
がんの治療費のうち、公的医療保険の対象になるものは自己負担が2割または3割で済むため、「がん保険はいらない」とも考えられるのです。
しかし、たとえ2割または3割負担だとしても、もともとの医療費が高額な場合は自己負担額も高額になってしまいますね。
その場合には、「高額療養費制度」を利用することができます。
高額療養費制度で上限が決められる
高額療養費制度とは、1か月間にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分について、後日払い戻してもらえる制度のことをいいます。
自己負担限度額は年齢や所得によって異なり、たとえば平均月収が28万円~50万円の方(69歳以下)が1か月に100万円の治療費がかかった場合、その月の医療費の上限は87,430円までとなります。
また、1年間に3か月以上の高額療養費を受け取った場合、4か月目からはさらに自己負担限度額が軽減され44,400円となります。
ちなみに、高額療養費は後日払い戻しとなるため、一度は自己負担しなくてはなりませんが、もし支払えない場合は「限度額適用認定証」を事前に窓口に提示すると、最初から自己負担上限額までの支払いで済ませることができます。
こういった制度が整備されているため、「がん保険はいらない」という意見が出てくると考えられます。
2.休業中は傷病手当金がもらえるから
がん治療を受けるにあたり、休業しなくてはならないケースもあります。
会社員の方が治療のために仕事を休業した場合、健康保険から「傷病手当金」の支給を受けることができるのです。
収入面のカバーをしてもらえるので、やはり「がん保険はいらない」と考えるひとつの理由となっています。
傷病手当金が支給される期間は、支給開始日から最長1年6か月で、受け取れる金額は月収のおよそ3分の2です。
これで当面の生活費がカバーできればがん保険はいらないともいえます。
3.がんに罹患するとは限らないから
「がんは2人に1人は罹患する」ということを耳にした方も多いと思いますが、実際に国立がん研究センター がん情報サービスの「最新がん統計」によると、生涯でがんに罹患する確率は、男性65.5%、女性50.2%という結果が出ており、まさに2人に1人ががんに罹患していることがわかります。
この結果だけを見ると、「がん保険は必要なのでは?」という印象を受けますが、このデータはあくまでも「がんに罹患する確率」であって「がんで死亡する確率」ではありません。
以前はがんは治らない病気といわれていましたが、近年は医療の発達により治る病気となってきました。
それを裏付けることのひとつとして、同統計では、生涯でがんで死亡する確率は、男性26.7%で、女性17.8%という結果が出ています。男性は4人に1人、女性は6人に1人といった確率です。
またもうひとつ、「がんにいつ罹患するか」もがん保険が必要かいらないかを判断するひとつの目安となります。
同統計では、「〇年後にがんに罹患する可能性はどのくらいか」を示したデータがありますので、以下をご覧ください。
男性
現在の年齢 |
10年後
|
20年後
|
30年後
|
40年後
|
50年後
|
60年後
|
70年後
|
80年後
|
生涯
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0歳 | 0.2% | 0.3% | 0.6% | 1.2% | 2.7% | 7.8% | 21.9% | 43.6% | 65.5% |
10歳 | 0.1% | 0.4% | 1.0% | 2.6% | 7.7% | 21.9% | 43.6% | 65.6% | |
20歳 | 0.3% | 0.9% | 2.5% | 7.6% | 21.8% | 43.6% | 65.6% | ||
30歳 | 0.6% | 2.2% | 7.4% | 21.7% | 43.7% | 65.8% | |||
40歳 | 1.6% | 6.9% | 21.3% | 43.6% | 66.0% | ||||
50歳 | 5.4% | 20.3% | 43.2% | 66.3% | |||||
60歳 | 16.2% | 41.1% | 66.1% | ||||||
70歳 | 31.7% | 63.6% | |||||||
80歳 | 56.6% |
女性
現在の年齢 |
10年後
|
20年後
|
30年後
|
40年後
|
50年後
|
60年後
|
70年後
|
80年後
|
生涯
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0歳 | 0.1% | 0.3% | 0.7% | 2.3% | 6.3% | 12.4% | 21.2% | 32.8% | 50.2% |
10歳 | 0.1% | 0.6% | 2.1% | 6.2% | 12.3% | 21.1% | 32.8% | 50.2% | |
20歳 | 0.4% | 2.0% | 6.0% | 12.2% | 21.1% | 32.7% | 50.2% | ||
30歳 | 1.6% | 5.6% | 11.8% | 20.7% | 32.5% | 50.1% | |||
40歳 | 4.1% | 10.4% | 19.5% | 31.5% | 49.4% | ||||
50歳 | 6.6% | 16.1% | 28.7% | 47.4% | |||||
60歳 | 10.3% | 23.8% | 44.1% | ||||||
70歳 | 15.4% | 38.5% | |||||||
80歳 | 29.5% |
たとえば、現在40歳の男性が20年後にがんに罹患する可能性は6.9%であることがわかります。
60歳でがんに罹患する可能性が6.9%という結果をどう捉えるかはその人によって異なると思いますが、「がん保険は要らない」と考える方もいるでしょう。
【参考:国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」】
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
がん保険に加入するメリット・デメリット
ここまでご紹介してきた内容から、「がん保険はやっぱりいらないかもしれない」と考えた方もいるともいます。
しかし、「がん保険は不要!」と言い切ってしまう前に、がん保険に加入するメリットについても確認しておきましょう。
メリット1:公的医療保険の不足分を補える
公的医療保険では医療費の自己負担分を軽減することができますが、2割または3割とはいえ自分で支払わなければならない部分があります。
がん治療は長期間に及ぶことが多く、1回の医療費は少額でも回数を重ねるごとに負担が大きくなります。
また、高額療養費制度で自己負担上限額を超えた分を後日払い戻してもらえても、やはり長期間になると支払い負担は大きくなるでしょう。
さらに、入院時の食事代や差額ベッド代、通院時の交通費など、公的医療保険の保障対象外となる費用もあるため、がん保険に加入して診断給付金や入院給付金などを受けることで、保障を手厚くすることができます。
メリット2:先進医療や自由診療も保障対象
がんの治療法にはさまざまな方法がありますが、先進医療や自由診療といった高度な技術を要する手術は公的医療保険の対象外となり、全額自己負担となります。
「貯金があるから大丈夫」という方もいるかもしれませんが、先進医療や自由診療は治療法によって数百万円かかるものもあり、たとえ貯金で支払えたとしても、その後の家計に影響を与えてしまうでしょう。
家計費からは子どもの教育費や住宅ローンなどの支払いもあると思いますので、がん治療だけにお金を使ってしまうのはおすすめできません。
がん保険には「先進医療特約」や「自由診療特約」を付けることができ、治療にかかった費用をカバーしてもらえるので、高度な治療に備えることを考えるとがん保険はいらないとはいえないのではないでしょうか。
メリット3:休業による収入減をカバーできる
先ほど、会社員の方は傷病手当金が受け取れるということに触れましたが、支給される金額は月収のおよそ3分の2となります。
生活費や治療費を全額カバーできれば良いですが、実際には難しいことがほとんどでしょう。
また、治療が長引いた場合、退職しなければならない可能性もあり、退職とともに健康保険からも脱退するため傷病手当金を受け取れなくなることもあります。
一方、がん保険に加入し「収入保障」を付けておくことで、がん治療による収入減リスクに備えることができます。
このように、がん保険には公的医療保障の対象外となる部分をカバーするメリットがあることがわかりましたが、一方で次のようなデメリットがあります。
「がん保険はいらない」といわれる理由にもつながるものが挙げられます。
デメリット1:保険料を支払う必要がある
がん保険に加入すると、当然のことながら保険料を支払わなくてはなりません。
がん保険が必要と感じている方は保険料を支払うことを理解できても、がん保険はいらないと感じている方にとっては「もったいない」と思ってしまうかもしれません。
また、ほかの生命保険の保険料や子どもの教育費、住宅ローンなどの支払いもあると、がん保険の保険料までは払えないという方もいるでしょう。
その場合は、保険料の安い掛け捨て型のがん保険を検討するなどして、家計費と保険料のバランスを考えると良いでしょう。
デメリット2:がんに罹患しないと給付金が受け取れない
がん保険はがん保障に特化した保険なので、がんに罹患し入院や手術、通院などをしなければ給付金を受け取ることができません。
一方、医療保険でがん保障も付いているタイプのものは、がんを含む幅広い傷病が対象となっているため、給付金を受け取れる可能性が高くなります。
こういったことから、がん保険はコスパが悪いからいらないと考える方もいるでしょう。
しかし、保険とはそもそも「万が一のために備えるもの」であり、いざというときの保障を確保するためのものです。
がんに罹患しなければ、それが一番幸運なことなので、「がんに罹患しないかもしれないからがん保険はいらない」と考える前に、もう一度がん保険について検討してみてはいかがでしょうか。
がん保険が必要な方・いらない方
がん保険に加入することのメリットやデメリットをご紹介しましたが、その内容からがん保険が必要な方といらない方はどのような方なのかが見えてきます。
がん保険が必要な方
がん保険が必要なのは、次のような方です。
がん保険はいらないと考えている方も、以下に該当する場合は加入を検討することをおすすめします。
がんに罹患した場合の治療費が心配な方
がんの治療費は高額になることが多いため、貯金ではまかなえない可能性があります。
また、日々の生活費で余裕がない方はがん治療にかかる費用を蓄えておくことは難しいでしょう。
がん保険なら、がんと診断されたときの「診断給付金」や入院や手術をした際の「入院給付金」「手術給付金」が受け取れるうえ、通院保障も付いているがん保険もあるため、治療費の心配を軽減することができます。
血縁者にがんに罹患した方がいる方
血縁者にがんに罹患した方がいる場合、がんに罹患リスクが高くなることが考えられます。
がん保険は、一度がんに罹患してしまうと基本的には新規加入することができず、「今はまだがん保険はいらない」と思っていると、加入するタイミングを逃してしまうかもしれません。健康体のうちにがん保険に加入しておくと安心です。
自営業や個人事業主の方
先にも触れましたが、自営業や個人事業主の方が加入している国民健康保険には、傷病手当金に該当するものがありません。
そのため、治療のために休業した場合の収入保障を得ることができないのです。
そういった事態に備えて、がん保険に加入し収入保障を付けておくことで、生活費をカバーできるようになります。
自営業や個人事業主の方でがん保険はいらないと考えている方は、収入保障の面からもがん保険を検討してみましょう。
先進医療や自由診療にも備えたい方
先進医療や自由診療は治療費が全額自己負担となるうえ、治療費が高額になるケースが多いので、がん治療の選択肢を先進医療や自由診療にまで広げたい方はがん保険への加入がおすすめです。
「十分に貯蓄があるからがん保険はいらない」と考えている方もいるかもしれませんが、がん治療は長引くことが多いので、貯蓄を切り崩しながらの生活は精神的に不安になる可能性があります。
がん保険がいらない方
一方で、次のような方はがん保険がいらない可能性があります。
ほかの保険でがん保障を付けている方
がん保障が得られるのはがん保険だけではなく、ほかの生命保険、たとえば医療保険でも「がん特約」をつけることでがん保障を得ることができます。
医療保険に特約としてがん保障を付けてあれば、別途がん保険に加入するのは保険料の無駄になってしまうため、がん保険はいらないと考えても問題はないでしょう。
公的医療保険の保障だけで十分と納得している方
前半でご説明した通り、公的医療保険でも先進医療や自由診療などの高額な治療や差額ベッド代などの費用を除けば、必要最小限の保障は得ることができます。
がん治療を受ける際に、先進医療や自由診療による治療はいらないと考えている方、また個室などを希望する予定がない方は、がん保険はいらないと考えても良いかもしれません。
まとめ
がん保険が必要かいらないかは、加入者のライフスタイルや貯蓄状況などさまざまな要因で結論が異なります。
しかし、がんは治る時代となった今、治療費だけでなくその後の生活のことも考慮する必要があるため、保障と貯蓄のバランスを保って備えることが大事です。
がん保険はいらないと考えている方も、もう一度がん保障について確認してみることをおすすめします。
ご自身で判断が難しい場合は、無料の保険相談などを利用するのも良いでしょう。